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【書評】芥川賞受賞作、村田沙耶香著「コンビニ人間」を読みました。

コンビニ人間

 

第155回芥川賞受賞作、村田沙耶香さんの「コンビニ人間」を読みました。本のタイトル通りコンビニを舞台にした物語です。芥川賞=純文学=難しい、よくわからない…というイメージが私の中に漠然とあるのですが、この作品は読みやすくスラスラ読めました。文量的にも150ページ弱しか無いので、読むのが遅い人でも2時間もあれば読めるので、肩肘張らずに読めるところもいいですね。

 

以下あらすじ、ネタバレあり。

 主人公は生まれつき非常に合理的な性格を持った女性で、人間らしい感情の起伏がありません。一言で言うとサイコパスという言葉が当てはまりますね。

作中のあらましを少し取り上げると、幼少時、クラスで男子がケンカをしており、女子が「誰か止めてー」と叫んでいるのを聞いた主人公は、近くにあったスコップを手に取り男子生徒の頭を殴り沈静化させます。

さすがサイコパス!男子を止めるという目的を達成するためには手っ取り早い解決法ですが、当然周囲から浮いた存在になりますし、それを心配した家族もなんとかその性格を治そうとします。

それを感じた主人公は、慣れないながらに周囲に溶け込もうとします。その方法が、必要以上にしゃべらない、指示されたこと以外しない、です。また、周囲の人の行動を観察し、彼らと同じような行動や振る舞いを取ることでなんとか中学、高校、大学を過ごします。

 

そうした中、大学生の時にたまたま見かけたコンビニのスタッフ募集の広告に惹かれ、応募しコンビニバイトを始めます。それは彼女にとって天職といってもいいものでした。なぜならコンビニはほぼすべての業務がマニュアル化されており、マニュアル通りにやれば何も問題なくこなせます。彼女は人としての感性が無いために日常生活に支障を来すことが多かったですが、マニュアルがあるコンビニでは迷うことなくきっちり仕事をこなせます。完璧なマニュアル人間として、彼女は仕事で活躍します。

 

そうして時は流れ、コンビニのアルバイトとして18年間勤務し、彼女は36歳になりました。20代の頃は周囲に溶け込み、何も問題なく過ごせたのが、36歳にもなると周囲の目が彼女の存在を再び奇異の目で見始めます。「いい年してアルバイトなんて」、「なんで結婚しないのかしら」と言った具合です。

 

そんな中、この作品の重要な登場人物、「白羽」が登場します。彼の特徴を上げると、中年無職の典型的なダメ人間で自分が無能なのを他人や社会のせいにして悪口ばかり言うプライドだけは高い口ばっかりのクズ野郎です。彼は彼女の働いているコンビニに応募してきてしばらく働きましが、勤務態度に問題があり、すぐにクビになります。

彼女はそんな白羽とひょんなことから同棲します。理由は単純かつ合理的で男が出来ることで周囲がホッとしてくれるから。ロマンスの欠片もありません。白羽にとってもヒモになれるのである意味お互いにウィンウィンな関係でしょう。

 

最初はそれで周囲の目を誤魔化し、上手く過ごしていましたが徐々に綻びが生じ始めます。彼女の勤め先のコンビニに同棲している事がバレてしまい、周囲はそのゴシップに喜々として群がり、あれこれと干渉を始めます。更に彼女の妹も、姉に男が出来たと聞いて彼女の家に挨拶に来るのですが、そこで二人の合理性しかない関係に思わず絶句、泣き出してしまいます。

 

そして、今まで仕事だけこなしていれば良かったコンビニでも、周囲の干渉が激しくなり、退職することになります。そうして自分の生きがい、拠り所としていた社会との繋がりがなくなり、鬱々とした日々を過ごします。

 

しばらくして、白羽に言われ正社員となるべく就職活動を始めますが、面接へ行く途中に寄ったコンビニで、再び自分の生きがい再発見します。やはり自分にはコンビニしかないんだ。私は生まれついてのコンビニ人間なんだ。ら自分のしたいことをするんだ!と。

その中で作中一番印象に残ったやり取りを引用します。

 

主人公がコンビニ店員として再び働こうと決意したのに対して白羽が言います。

白羽

「狂ってる。そんな生き物を、世界は許しませんよ。村の掟に反している!昔から迫害されて孤独な人生を送るだけだ。そんなことより、僕の為に働いたほうがずっといい。皆、そのほうがほっとするし、納得する。全ての人が喜ぶ生き方なんですよ」

それに対して

主人公

「いえ、誰に許されなくても、私はコンビニ店員なんです。人間の私には、ひょっとしたら白羽さんがいたほうが都合がよくて、家族や友人も安心して、納得するかもしれない。でもコンビニ店員という動物である私にとっては、あなたはまったく必要ないんです。」

  

この作品の言わんとする所は、周囲に迎合することなく、自分がしたいように、生きたいように生きればいい、ということだと感じました。作中で白羽が言っていますが、時代が進み、進歩しても人間の根本的な部分ははるか昔から変わっていません。異端者は迫害され、隅に追いやれれ、生きていくことが困難です。だから誰しも周りに合わせ、自分が周囲から浮いた存在とならないよう注意しながら生活し、世間体や人からの評価を気にしてしまいます。そんな人間の根本的な思考や習性を風刺した面白い作品でした。

気になった方は読んでみてください!

 

 

ちょうどタイムリーですが、最近巷で話題の「レールに沿った人生」云々についても、この作品に通じるものがあるんじゃないでしょうか。

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ご自分で決めたことです。周囲がとやかく言う必要は無いですし、その資格もないです。個人的には彼を応援しています。まだ若いので失敗しても挽回できるでしょう。周囲の批判を気にせず、ただ後になって後悔することがないよう、自分の決断を、人生を全力で頑張ってほしいですね。

 

 それでは!